第2回少ゼミ3


多くの大学の講義は、「話を聞かせれば分かるはず」を前提にしている。このスタイルによる学習効果は、いったいどれくらいなのだろう?


“会議の技法”の著者、吉田新一郎さんによればこうだ。

「学校の教室の中でも、大人を対象にした様々な学びの場でも、一番たくさん話をしているのは教師や講師です。時間の九割がたは、教師や講師が話をしているのではないでしょうか。その意味では、「空っぽのバケツ」である生徒たちに知識や情報をドバドバと流し込むたとえは当たっています。しかし、約二千五百年前にあの有名な老子

「聞いたことは、忘れる。見たことは覚ええる。やったことは、わかる」

と言ったそうです。うまい話は、いくらでもそのときはわかった気にさせてくれますし、いいノートも取らせてくれますが、それらが活かされることはほとんどなく、忘れられる運命にあります。……中略
ちなみに、この老子が言ったことを数字で表したアメリカの研究者がいました。それは、次のとおりです(数字は、記憶に残る割合を表しています)。

聞いたことは、  10%
見たことは、   15%
聞いてみたときは、20%
話し合ったときは、40%
体験したときは、 80%

……中略
教えたときは、  90%

です。(吉田新一郎著 効果10倍の<教える>技術(PHP新書)より)」


誰もが経験的にそう思えるのではないだろうか。


そこで、今回の講義では、知ってもらいたい基礎知識を与える前に、できるだけ、考えてもらい、話し合う機会を作るような“参加型”を心がけた。


テーマは「生物多様性里山」。キーワード「持ちつ持たれつ」。


まず、知ってもらいたい基礎的事項を準備する。聞き手に考える時間をできるだけたくさん与えるために、基礎的事項は最小限に留めたい。そして質問形式にする。


例えば、「生物多様性とは何ですか? いったい、生物の何が多様なのなのですか?」


ここで重要なのは、期待どおりの答えが出てこなくても、それをまず書き出すこと。その点は、前回やったブレーンストーミングと同様、いきなり否定しない。もし、回答に釈然としなければ、なぜそういう意見かを後で聞けば良い。肝心なのは、互いに理解し合いながら考えを共有する事だ。


二人一組になって話し合ってもらい、出てきた答えを列記していく。


種類、住処、生態、植生、環境、関わり合い、遺伝子、適応、景観、星………


期待していた答えが次々に出てくる。さすがは、小ゼミ志望者。

その後、伝えたかった「生物多様性の階層構造」、すなわち、遺伝子、種or個体群、群衆or生態系、景観に照らし合わせなら、回答リストを摺り合わせていく。“種類”とは分類学上の基本単位である「種」に置き換えることができる。“住処”は“適応”度を左右する要素であり、それは、種や個体郡の性質を決定する。また、“植生”とは多種多様な植物種の構成パターンであり、構成する種どうしの“関わり合い”がまさに“生態系”である。


“星”という答えは、地球以外の星にも生命があり、それを含めるとすれば、地球とは異なる環境があるはずなので、その分多様になるという考えから発想されたそうだ。なるほど。そういう意味なら“住処”だ。予想外だが受容できる。


こんなふうに、参加型レクチャーでは、話し手と聞き手の双方向の対話がなされる。自分とはことなる他人の考え方に触れ、話し手も聞き手も理解が深まる。自分が考え出した答えが、他の考え方や言葉と一緒になり、ある方向でまとめられることによっても、発言者の理解がより深まる。いきなり「生物多様性の階層構造とは……」と一方的に説明されて聞くよりは、はるかに学習効果が高いだろう。


他に用意した質問「花はなぜ咲くのか」については、以下のような答えが出てきた。


花粉を運んでもらう、昆虫を誘う、見てもらいたい(見るものを引き付ける)、子孫を増やす、有性生殖のため、プレゼントされるため……。


この答えからは、花の色、形、香り、開花時間が、花と送粉者の持ちつ持たれつ=“送粉共生系”を進化させ、花の見かけがが多様化していること学ぶ。


“プレゼントされるため”という答えに対し、私から「誰に?」と問い返す。返ってきた答えは……


「飲み屋のおねえちゃんに」だった。


残念ながら、この答えについて花の進化的視点で解説することは、今の私の能力では不可能だった。【比良松】